十勝のおすすめを訊かれた際、ついつい色々な場所を紹介したくなりいつも難儀する。六花亭、柳月、クランベリー、インデアンカレー、鳥の伊藤、あさひや、お菓子の館あくつ、インデアンカレー、米倉商店、たい焼き工房、インデアンカレー、ランチョエルパソ、あすなろファーミング、インデアンカレー、インデアンカレーなど、飲食店だけでも様々ある。
そんななか、忘れてはいけないのが帯広市にある「高橋まんじゅう屋」だ。おやき(大判焼き)を主とし、蒸しパンやソフトクリームが評判の和菓子屋さんである。地元では「たかまん」の愛称で親しまれ、いつ訪れても混んでいる人気店だ。これから帯広を訪れる人には、ぜひとも予定の一つに組んでほしいお店である。
その高橋まんじゅう屋でそれなりの量をお持ち帰りするときに、商品を包んでくれる包装紙がある。こちらの、白と橙色の紙である。
よくよく見るとそれは地図になっており、
説明書きによると、昭和十年五月の帯広の案内図であるようだった。85年前。もはや古地図である。
なぜ、この意匠をつかっているのか。記憶が確かなら、わたしが幼少のころ、つまりは30年以上も前から包装紙がかわっていない気がする。いったいなぜこれを選んだのか——、甘さの塩梅が絶妙な餡のおやきを食みながら眺めていると、先日観たテレビ番組の内容をふと思い出した。推理小説の謎を解き、実際に隠されている宝を見つけると、価値のある宝石をもらうことができるというアメリカの本である。
それは、著者が実際にアメリカ中のいくつかの場所に宝を隠し、その隠し場所を暗示する問題を小説に記したもので、読者への挑戦状とも取れる内容であった。40年前に発刊されているにもかかわらず、現在までに発見されているのはたった三つで、未だ九つの宝が地中に埋まっているという胸躍る本だ。謎解きが好きな者には思わず手に取らずにはいられない一品であった。
もしかして、それと同じように、この古地図には、宝のありかを示す遊び心が隠されているのではないか——湧いた興奮を冷静に押さえ込みながら、わたしは虫眼鏡を準備し、地図に何かしらの謎が記されていないか、すみずみまでくまなく目を通すこととした。
それにしても古い地図が単純におもしろかった。現在の帯広市中心部を知っているだけに、変化と、変わらないものが混在し、さまざまな発見があるのだ。見続けているうちに、昭和十年の帯広市にのめり込んでいった。
藤丸百貨店が、すでに存在している! 屋号もそのままだ!
広小路もすでにある。
よく見ると、ふたつある。
帯広神社や東本願寺別院はそのままだろう。
柏葉高校のある場所は、「帯広中学校」となっている。
十勝毎日新聞社発見。
すっかり、時間旅行をした気分になった。知らない土地を観光したかのような満足感である。実に楽しい。タモリさんが、古地図をもって散歩するのを趣味としているらしいが、その気持ちがよくわかった。違いや、現在に残るものを見比べて散策するのは、きっと興奮を覚えるに違いない。
そうこうしているうちに、幼少の頃を帯広で過ごしていた父が、「○○さんて家、このへんにないか?」とか、「ああ、○○商店て確かにそのへんにあったわ。記憶にある」などと、歴史の証人のごとく解説を始めた。
ちなみに父の情報によると、高橋まんじゅう屋はそもそも餅屋で、片手間におやきを焼いていたのに、すっかりそちらのほうが評判の品になったということであった。
その豆知識を聞きながら、「そういえば」とわたしは呟いた。「たかまんは記載されているのかな?」
現在の住所をもとに、そのあたりを捜索することにした。そもそも、たかまんと何かしらの関係がないと、この地図を包装紙にしている意味がわからない。昭和10年は、創業した記念の年なのだろうか。
だが、探しても探しても、あるべき場所に「たかまん」の名前は見当たらなかった。「高橋商店」というのが付近にあるが、それがそうなのかは判然としなかった。
その後、目力で火がつくのではないかというほど血眼になって地図を凝視したが、結局、たかまんの痕跡を見つけることはできなかった。宝の地図としての匂いも感じられない。これは一体何なんだろうか。
疑問が頭を巡る。そもそも、高橋まんじゅう屋の創業はいつなのだろう。気になり調べてみると、なんと昭和29年であることが判明した。なんてことだ。それでは載っているわけがない。目が疲労困憊になる前に、もっと早く調べればよかった。では、昭和10年はいったいどこからきているのか。どういう関係か。ますます奇妙である。いったいなんなんだ。
いまこれを書きながら、ふと、もしかしたら、「高橋」という名前が地図上に四箇所あり、それを「十」字で結ぶと、そこに宝が埋まっているのかもしれないと思いついた。夢がある。掘り出したら、大判小判ならぬ、年代物の大判焼きがざくざく出てきたらどうしよう。嬉しくない。
そんな突拍子もないことを考えつつ、だが、何十年も前の帯広を知る父の、思い出に触れるいい機会になったのだから、そう言う意味では、貴重な時間をくれた宝の地図だったのかもしれないとちょっと思った。
とても不思議な、楽しいひと時をくれる、たかまんの包装紙であった。
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