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君は馬匹車という乗りものを知っているか。

本tech

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北海道十勝・帯広と言えば皆さんは何を想像するでしょうか。

「豚丼」、「中華ちらし」、「勝毎花火大会」に「帯広畜産大学」。某「有名お菓子」に「有名カレー」に「有名パン屋さん」。
「幸福駅」に「川西長いも」。4年に一度の「国際農機展」も開催地はいつも帯広です。
その他には…「ばんえい競馬」が有名ですよね。

ばんえい競馬は、その昔は北海道の旭川・岩見沢・帯広・北見の四市での開催でしたが、今や日本国内でも北海道は帯広市のみの単独開催となっています。

ばんえい競馬は単独開催なので、地方に遠征することは、ほとんどありません。でも、一般的な競馬(サラブレッド種)は全国に競馬場があり、当然重賞レースに出る為に、馬は遠征に出向いていくことになります。

では、その遠征にはどのように行くかというと、牛が乗る「家畜車」とは全く別物の「馬匹車(ばひつしゃ)」という専用のトラックで行きます。
そう!この馬匹車こそが、大型車マニアの心を激しくくすぐるのです(笑)

(本題に入ります)
今回、縁あって僕と同業の機械修理の他に、競走馬輸送も行う友人のM氏が、馬匹車を取材させてくれたので、謎のベールに包まれた全貌を皆さんに説明とともに紹介していきたいと思います。
尚、僕の個人的な見解も多く含まれることをご了承ください。

それでは、まずはじめに外観から。

四軸シャーシにバスの顔。フロントガラスのサイズ感からベースはハイデッカー車(※1)と推測。

大型車が好きな人ならすぐに気づくと思います。日野の低床四軸(横から見てタイヤが4列)シャーシの上にバスの顔。違和感アリアリなのです。通常のバスは二軸(横から見てタイヤが2列)ですからね。

※1 ハイデッカー車
路線バスと違い、バスの客室デッキ部分が高い車両の事。タイヤハウスの張り出しが無く床が前から後ろまでフラットになっている。セレガのような観光バスはハイデッカーとスーパーハイデッカー車があるがローデッカー車というものは存在しない。

もう少し詳しく説明すると日野プロフィアの四軸、つまりFW(※2)のシャーシにJバス(※3)になる前の純粋な日野のバス「セレガR」の上物が載っています。
差し詰めプラモデルを作るようにエンジン、足回り、シャーシが出来たところでバスのボディを上からはめた感覚でしょうか。

しかし、それはあながち間違いではないようです。
というのも、昨今のバスのほとんどがモノコックボディではなく、スケルトンボディ(※4)を採用しているため、前述の様なことが可能なのです。

※2 FW
日野自動車の型式のこと。低床4軸車はFWだが、その他の仕様によってFS、FR、FN、FH、FQなどがある。

※3 Jバス
2002年にいすゞ自動車と日野自動車が合弁で設立した会社。国内最大手。

※4 スケルトンボディ
「スケルトンボディ」とは、細い鋼管を鳥かご、または骨格のように空間を空けながら組んだ自動車のフレーム構造のこと。モノコックボディの様に壁面自体がフレームとはならないため窓を大きく出来るなどのメリットがある。逆に自動車や航空機はモノコックボディが主流。

続きまして知られざるその全てを詳しく説明していきます。
まずドアの開閉方法はセレガシリーズの場合、左ヘッドライトの下のカバーを開けるとスイッチが隠されており、そのスイッチのON・OFFでスイングドアが開閉します。

ヘッドライト下のドア開閉スイッチ

皆さんもどこか観光地へ出掛けたら、観光名所には行かずにバス駐車場に潜入して観察してみましょう。運転手さんが車外にいて、ドアが閉まっていたらまず最初は大体この動作になります。
しかしイレギュラーで運転席の窓を少し開けておき、そこから手を伸ばし運転席側のスイッチでドアを開閉する運転手さんもいらっしゃいます。面白いですね。

次にヘッドライト上のフロントパネルを開いてみます。通常のバスはここは開きません。
開けるとクーラントタンクの奥にはラジエーターが見えました。

フロントパネルを開けてみた。通常のバスはここが開閉できる機構はない。

なるほど。
ベース車両はFWなので、バス(の外観)なのにフロントエンジンなのです。通常のバスはリヤエンジンなので「なんだこれ?」となりました。
続いてヘッドライトの間の方向幕スペースにも注目。ラジエターが容易にエアを取り入れられる様に無数の穴が開いています。
通常ここは「〇〇行き」や「〇〇観光」という風になります。電光掲示板のようなタイプも存在します。バスジャックなど緊急事態が発生したら「SOS」と表示させることもできます。もし見かけたら、迷わず110番しましょうね。

さてそれでは気になる車内へ。
「プシュー」というエア音とともにスイングドアが開きます。
一歩足を踏み入れるとそこはバス…ではなく、FWだった…
なんとダッシュボードがあり、まんまFWだったのです。

スイングドアを開くと別空間が…

型式はFWから始まる。あくまでもベースはトラックということ。

バスのキャビンにFWの内装というのが驚きです。
そして助手席。とんでもない場所に据付されています。
なにせベース車両はFWなので、真下には巨大なエンジンが搭載されています。(現車は直列6気筒K13C 410馬力だった)なのでフロントに搭載されているエンジンが大きく室内に張り出してしまうため、こんなことになってしまうのですね。
助手席シートに座り足を伸ばしてみます。というか、シートポジション的に膝を曲げて座れない構造だから足を伸ばして座るかあぐらをかいて座るしかないようです。

助手席の位置に注目

オットマンは固定され、膝を曲げて着席できない構造だった

友人M氏にも座ってもらいました。「ちょっとその短い足伸ばしてみて」散々、笑っておきながら自分も座ってみたらほぼ互角でした…(泣)
余談ですが、おじさんは5本指ソックス好きですよね。僕も愛用しています。

シートの後ろを確認すると広大なスペースがあります。一般的なトラックで言うところのベッドスペースです。

ベッドスペース。通常サイズの3倍くらいありそう。

そのベッドスペース頭上には本当のベッドがありました。そして端には馬室へと繋がるドア。

本当のベッド。巻頭の写真の頭上が盛り上がっていたのはこのため。

広大なベッドスペースの床をめくってみたら、お馴染み緑のマーブル模様のバスの床。そしてバス同様の点検ハッチ。大型トラックの様にキャビンがチルトするわけではないのでこのような点検ハッチが必要となるのですね。

シートが据付されているものだと推測していたが違った。

M氏:「地方競馬に遠征する際は運転手・助手以外の乗組員は後ろのベッドスペースに座って移動します。その際、頭上のベッドスペースは運転手と助手以外は使用してはいけない決まりがあります」

へぇー。そんな決まりがあるのですね。馬にストレスを与えないよう、一度走り出したらフェリーとトイレ休憩以外止まらないんだそうです。
そのため運転手と助手はしっかり睡眠を取るために、ちゃんとしたベッドが用意されているんだそうです。過酷な仕事だなぁ…。

それでは次に運転席まわり。
もはやトラックなんだかバスなんだか訳分からんことになっています。

トラックとバスが混在する運転席まわり。

でも右側面はまんまバスです。スイッチが沢山あり面白いです。
バス同様ヒーターもウォーターポンプとボイラーとが選べます。吸気・通風~と書いてあるのは頭上の換気扇です。そして馬室専用のエアコン。これはお馬さんも快適に過ごせますね。

右側面はまんまバスだった。

しかしハンドルにはプロフィアのエンブレム。やはりベースはFWなんだよと誇張しているようです。
オーディオの操作関係は場所の都合か運転席頭上にセット。走行中は誰が一体操作できるのか…最近のカーオーディオはリモコン付きだからここでも良いのか?

頭上のオーディオ機器。その位置に驚いた。

ちなみにバスの様にカラオケは出来ないそうです。残念(笑)
少し前のバスは客室の壁にマイクの配線の差し込みジャックがあったりしたんですよ。最近のバスはきっと無いんでしょうね。
シートのメーカーはISRI製。日野の大型はこのメーカーを採用しています。ドイツ製で我が「べんぞうさん」も同じメーカーのものが装着されています。

シートのメーカーはISRI製ドイツ製だ。

さてそれでは開閉注意と書かれた馬室へと続く禁断のドアを開けます。すると意外にも綺麗な空間でした。

「馬はう〇ちも硬くて固形だからそこまで汚れないよ」とM氏。
おしっこは緑の床と床の隙間がレールになっていて車体後部に搭載した「し尿タンク」へ流れる仕組み。よく考えられていますね。

馬室には室内1箇所と外4箇所からアクセス可能。当然ながら馬の載せ下ろしは最後部のリヤゲートから行う。

載せられる頭数を聞いてみました。
M氏が使用している車両は通常4頭、最大6頭なのだそうです。しかし長距離輸送仕様だと通常6頭、最大9頭なんて仕様もあるそうです。

また、外からも馬室にアクセス出来る様ドアが付いています。左右2枚ずつの計4枚です。
し尿タンク上の部品は油圧ポンプでリヤゲート開閉のためのものです。 腹下にはスペアタイヤが装着されています。旧規格の四軸車のため一軸目のタイヤのみ大きいのでスペアタイヤも二種類必要になります。

油圧ポンプの下にはステンレスで出来た「し尿タンク」が搭載される。スペアタイヤ側のハッチを開けると「し尿タンク」に窓が付いていた。

バッテリーの上には寝板。これは車輛点検用のものですね。こんなものまで搭載されているのは驚きです。ちなみにバッテリーはそろそろ交換時期でしょうか?

バッテリーの上には寝板がセット。バッテリー交換の際はボックス自体が外に引き出せるようになっている

取材終わりにM氏のご厚意で少し運転させてもらいました。なんとなく運転席に座った感じが僕の普段乗っている大型トラックより左に寄ってる感じがしたのですが、M氏いわく実際に少し左に寄っているそう。トラックのハンドルまわりなのに右側の壁にはバスの装備を据付しているので、そうなるのでは?とM氏が推測。

普段僕が乗っている大型搬送車と違い、少し運転席が左に寄っている気がした(M氏運転)

リヤゲートも開閉してもらった。登坂板が後ろにさらに一段伸びる仕様だった。

M氏の機械修理工場脇の放牧地の馬ともフェンス越しに少しふれあいさせてもらった。

最後に都市伝説とされるあの質問をぶつけてみました。

:「何億円もする競走馬の輸送中に、もし人をはねそうになったら賠償金は人よりも馬の方が高額になるため、馬の方を守るようにするって、耳にしたことがあるんですが…」

この質問に対してM氏は「どちらも大切な命です。両方の被害が最小限になるよう最善を尽くすのが我々プロドライバーです」

ここに真のプロドライバーの姿を見ましたよ。

おわり。


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東都輸送の中古が北海道の牧場に渡ったのも驚きですね…

五本指ソックスは大人の嗜み

バスのドア外から開けたい(開けさせてもらいたい)

これは乗ってみたい(載せて運んでもらいたい)

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