皇室の帝の証、三種の神器である。
それぞれ、皇居、伊勢神宮、熱田神宮に奉安され、天皇陛下ですら目にすることができないとされている即位の必須アイテム(勾玉、鏡、剣)だ。にもかかわらず、それがいま、なぜか、我が家に突然配送された。友人から。レターパックで。
送り主は、高校のときから仲の良い久保くんだった。広尾町出身で、テレビ番組のアンビリーバボーのエンディング曲や、ソフトバンクの和田投手の入場曲を歌ったロックバンド、Theイナズマ戦隊のドラムとして活躍しているバンドマンである。音楽が専門だと思っていたが、伝説の三種の神器を手中にするなんて、さすがはロッカーだ。彼ならかぐや姫の無茶な注文も叶えてしまいそうな気がする。
しかも、レターパックの伝票をよく見ると、三種の神器と書かれた後ろにカッコをして「雑貨」と補足があった。所持することにより、皇室の正統な帝の証とされる貴重な神器も、バンドマンの概念からすると雑貨なのだ。さすが、ロッカーは違う。
いったい、これを我が家に届けてくれた日本郵便のひとはどんな気持ちだったのだろうか。通常、配送伝票の品名欄に「雑貨」と書いた場合、「もっと詳しく書いてください」とやり直しを求められることが普通である。しかし、今回はそれが許容された。もしかすると、本物の三種の神器が本当に入っているとして認められたのかもしれない。大事件である。
恐ろしいことになった。まさかの皇族デビューである。高校デビューとは訳が違う。来期の元号にわたしが関係してくるのかもしれないと思うと、身が引き締まる思いだ。
とかちみっち元年。
そういえば、久保くんから一ヶ月前ほどに、メールで「好きな色は何か?」という問い合わせがあった。そのほかにも、わたしの好きな色、妻の好きな色、ふたりが入籍した日はいつか、という質問があった。
なるほど。これは、わたしが最近ようやく結婚した記念に、贈り物をしてくれたのに違いない。尋常ではない代物とはいえ、その気持ちは嬉しい限りである。しかし、草薙剣にわたしの入籍日が彫ってあったらどうしよう。ロッカーならやりかねない。
不安になりながら、わたしはレターパックを開封した。
正直なところ、封筒の大きさと触ったときの中身の柔らかさから、Tシャツではないかと推察していた。ところが、中を覗くとその触感は梱包につかうプチプチであることがわかった。取り出して開くと、さらに重厚な包み紙が複数現れ、「なんだこれは……?」という緊張と、宝箱を開ける時のような興奮を我々に与えた。ほどいていくと、それはわたしたちがそれぞれ好きな色の、皮のコースターと、皮トレイ、そして肌触りのいい皮のキーケースであった。
「おおお!」
我々は本当に、ひとつずつに歓声をあげながら、開封する時間を楽しんだ。子供の頃そうであった、クリスマスの朝にプレゼントを開くときのような高揚感を久しぶりに味わった。
ひとをこれほどまでに興奮させるなんて、さすがはロッカーである。
「さっそく使おう!」
妻に促され、「for Beer」と書かれたコースターに冷えたグラスを置きながら喜びを味わった。長年の友に祝福された味は、また格別なひとときを我々に与えてくれた。
とかちみっち元年、乾杯。