それは、うだるような蒸し暑~い、真夏の日の出来事じゃった…。
若かれし時代ぇに、
当時…仲の良かった友人(仮名:ヒロシ)と2人でよく遊んでいただども、そん日は野良仕事も無く、何もすることが無くて、暇で暇で、暇でのぅ~。
あんまりにも暇すぎて、夕闇が迫る頃あいに、
十勝北部にある砂防ダムへ、魚釣りさ出かけただよ。
十勝北部と言っても、詳しぃ場所は秘密だでよぉ。ヒヒッ。
鬱蒼(うっそう)と生い茂る密林の中に、わし等だけの秘密の釣り場があってのぅ~
それは、それは、良く釣れる漁場だったんじゃ。
ヒッヒッヒ。
んだども、そん日は蒸し暑さのせいか、魚の活性が悪くてなぁ、なかなか釣れんだでよ。
そんでも、覚えたての釣りがで楽しくて楽しくてなぁ~、
辺りが暗くなるまで、粘っていただよ。
そうしとるうちに、どの位ぇ時間が経ったじゃろうかのぉ。
気づけば、水辺が見えなくなるほど暗くなってしもうたんじゃ。
「あんれまぁ、おっかねぇのぅ。熊でも出そうだべや。」
さすがに諦めて帰ぇろうと、
車の方へ向かう途中のことじゃった。
ふぃと気になって川の方へ振り返ってしもうたのじゃ。
したっけのぅ…
誰ぁ~んれも、おらんはずの真ぁ~っ暗な滝の上に、
爺さんが、ひとりで立っとったんじゃわ。
「あんれ?」
あんだら所に、なして爺さんが??と、そりゃあもう、驚いたと同時に嫌~な予感がしたんだべさ。
何をしているんじゃろうかと、目をこらしてじぃ~っと見とると…
いんや…、体が固まって動けなかったと言った方が良いんじゃろうか。
とにかく、じ~っと見つめとったんじゃ。
ほんだらば、どうなったかと思う?
突然その爺さんが、滝の方にゆ~っくりと傾いての、そのまま滝から飛び降りてしもうたのじゃよっ!!
はうぁ!!
なんとまあ、ほんじゃけりゃなことだわなあ。
音もなく、悲鳴もあげずになぁ、頭から落ちとったんだばぁ。
ほんで、滝の落口付近で、音もなくサァーッと消えてもうたんじゃわ…。
・
・
・
また、どえれぇもん見てしまったようじゃのぅ…
んだども、こんな話、だんれも信じるやつもおらんじゃろうなぁ。
んで、隣を見ると、ヒロシも滝の方を見たまま動かなかったんじゃわ。
そん時思ったんじゃ。「あ、彼にも見えたな」と。
筆 者 「み、見たかいの?」
ヒロシ 「そ、そだねぇ〜」
筆 者 「人…だったかいのぅ」
ヒロシ 「たぶん、人じゃろうかねぇ…」
筆 者 「なんじゃろうねぇ」
ヒロシ 「怖かろうねぇ」
筆 者 「怖かろうねぇ…」
ヒロシ・筆 者 「……」
…
「ぎいゃあぁぁあああ!!!!!!」
言うて、突然大叫びしながら、ヒロシが走り出したんじゃよ!!
えれぇ、驚れぇたのなんの、おかしな気分になっちまったんじゃなぁ。
筆 者 「ま、まっとくりゃれっ!!」
慌てて追いかけるワシ!
ズダダダダダダ…!(足がもつれて転倒するヒロシ!)
追い抜かすワシ!
悶(もだ)えるヒロシ!
そのまま走り去るワシ!
助けを求めるヒロシ!
後ろを振り向かないワシ!
遠ざかるヒロシ!
車に辿り着いてのぅ、
ヒロシを置き去りにして、走り出してしもうたんじゃわ。
あんとき、骨折でもしとったんじゃろうなぁ…
バックミラーに写るヒロシ。
見てみないフリをするワシ………
ワシ……
ワシ…
・
・
・
もうパニックじゃった~。
気ぃついたときには、もう家に辿り着いてしもうとったんじゃ。
その後、『彼』がどうなってしまったのか…
生きて帰ぇれたんじゃろうか、そ・れ・と・も…。
「自殺をして成仏できねぇ『お化け』は、自分が死んだことに気づかずに、再度自殺を実行する…。んだども、死んどることにまだ気づかず依然として意識があるため、更に自殺を繰り返す…。」
…という話をどっかの、ティーブィー番組で聞いたことがあったんじゃが、
あん日は、そげな『お化け』を見てしまったんでばないじゃろうか…。
そんで『彼』を見捨てたワシの足は、知らず知らずのうちに『あん滝』へ向かってしまうのじゃ…。
おしまい、ずんどこばってんこ、ほんじゃぎり。